• 椅子のデザインの方法 その2

    強度が想像できないと何も決められない

    形を決めていく上で、大事なのは、強度だ。金属製ならば、もう少し問題は簡単なのかもしれない。けれど、木の椅子の場合はとにかく壊れないようにしなくてはいけない。材料には木目があって、その方向によって強度は全然違うし、木の種類でも違う。同じ木だって、かなり強度にばらつきがある。木工の面白さはそこにあるけれど、初めて椅子を作る人にとってはそこが一番難しいというか、デザインの幅をせばめる理由だよね。

    確かに、どれくらいの太さが必要かわからないと、脚の形も決められませんね。

    これだけはいろいろ椅子を見て、最低でもここは30ミリ角必要だなとかわからないとね。まあ、実際一脚作るだけでいいよ。そうすれば、強度のことは格段にわかるようになる。

    最初から良い椅子は作れないと開き直れって、工場長にも言われました。

    そうだ。アウトプットをするしかない。完璧な椅子を作れる確信が持てるまで椅子を作り始めないなんてナンセンスだ。椅子づくりは経験がものをいう。

    でも、どうせ苦労するなら、最初から良い椅子が作りたいです。

    それもわかる。だから、試作をするんだ。合板とかで。

    モックアップってやつですね。ぼくは工場を見渡す。隅の方にはモックアップが積み重なっている。

    モックアップは絶対にやったほうが良い。これが一番のコツだな。座り心地はモックアップを作らないとわからないと思っていい。ぼくや工場長は、図面を見れば、だいたいの座り心地は想像できるけど、最初からは無理だからね。

    なんか、モックアップって作りたくないというか、抵抗があるんですよ。

    え、太介もそうなの?

    はい、なんか、そのモックアップが最初の椅子になるというか、そこで一旦完成してしまうのがおしいというか、椅子がやっとできあがって、どきどきしながら座りたいというか。

    うん、答えを、本番で作る前から知りたくないんだよね。わかるよ。そのドキドキがモチベーションになるから。でも、絶対に作ったほうがいい。そうしないと、完成後に、泣くことになる。最初から全て間違っていたような気持ちになる。経験者が言うんだから間違いない。

  • スキー 小回りのコツ

    木工のコツもスキーのコツも、客観的な観察から

    Bonburuの工場からスキー場が見える。
    リフトは一本しかないが、5つのコースがあり、上級者から初心者まで楽しめるなかなか良いスキー場だ。
    大晦日は、夕方からナイターを滑ってきた。

    ずっとウェーデルンというのか、小回りの壁を乗り越えられずにいた。スキーの上達は5年前で止まっている。大きく、板をそろえて回るパラレルターンがなんとかできるというレベル。
    それが、ここ数回スキー場に行って、少しだけれど小回りのコツがわかってきた。視界の下方で、スキー板の先端が右から左、左から右へと滑らかに移動する滑り方ができるようになってきた。
    いろいろな人にウェーデルンのコツってなんですか、と聞いてきた。それでも、どうしても体がついていかない。体重を乗せる左右の板をすばやく切り替えられないでいた。

    やはりコツというのは、自分で掴むものなんだなと思う。木工でも同じ。工場でもこのコツはね、と教えあうけれど、やっぱり自分なりの事物の捉え方が勝負、自分の理屈で理解するキーをいかに探すかが勝負なんだなと思う。そのためには他の人が木工をしているところを観察する。自分の木工の仕方を観察する。この両方をするしかない。こうしたらこうなるという因果がというか、パターンをつかもうとする姿勢が、自分なりの木工のコツをみつける助けとなる。

    ぼくがウェーデルンのコツとして掴んだのは、板にしっかり乗って、回転をしたら、だいたい50パーセントぐらい、その乗って踏ん張っている感じを抜いてやる。加重を減らす動きをする。具体的にはちょっと伸び上がる。今まではこの伸び上がりが雑で、いっきに0パーセント加重にしていたんだなと、気づいた。それがいけなかったのだとわかる。ある程度の加重がないと次のターンへの流れが途切れてしまうというか、板だけが体の下を通り抜けていくことが難しくなる。ここ。ここがいままで気づけなかったポイントです。
    50は乗ったままで、板だけ進ませるというか、体だけ残すというか、ある程度板には加重しながら、上半身はそのままで下半身だけが動く。右に回ったなと思ったら、半分加重を減らして、あとは板だけ先に行ってよ、みたいな感じにすると自然と次の左回転の姿勢になれる。俯瞰してみると、振り子のように下半身が左右に振られる。

    これが気持ちいい。めちゃくちゃ楽しい。慣れてくると板が仕事をして、その上で上体はラクをさせてもらえる。スキー板だけが体の下を行ったり来たりする。スピードを出しても怖くない。疲れない。けっこう滑り込んでも、余裕でスキー場をあとにできるようになった。

  • 小さいデザイン

    どうしたら自分の木工の道が見えてくるのか

    工場長がよく言うことだけれど、「木で何かを作ることは、容易い。でも、自分で満足できるものを作るのは非常に難しい」。

    これは本当にそうだと思う。
    ここBonburuでは工場長も岩田さんもデザインができる。常に新作を作ろうとしているから、そこらへんに試作品がころがっている。そして、ちゃんと定期的に最新作としてまとめあげ、売上150万円分くらいを一度に作る。そしてネットにアップする。大抵の場合、2日もあれば完売する。ちゃんと買い手が付いている。
    そうやって稼ぐシステムの中で、ぼくは制作の、比較的簡単な工程を担当する。本当に多少だけれどデザインに関与する場面もある。そうやって学びながら、数年で自分もデザインできるようにならなければいけない。自分で満足できるデザインを定期的に発表する。今のぼくにはものすごく難しいことに思える。

    それを岩田さんに相談したら、とにかく小さいものを作る、そして完成させるように言われた。短期間でデザインを終えることが大事。作品の大小はまったく気にしてはいけない。極端な話、20分でペンダントトップのデザインから製作まで完成させるとかを、意図的にできれば理想的だよね。

    でも それじゃあ大したものは作れないのでは?

    いや、一つのアイディアでいい オリジナルのアイディアがほんのちょっとでも込められれば、けっこう自分で気に入るものだよ。とにかく誰の真似でもないと言い切れるすごく小さいものを作ってみたら。

    なるほど、と思ってぼくは横切りでいま切ったばかりの木っ端を眺めている。これで何を作ろうかと。