木工メモ その1

良い木工職人

木工が楽しい。
今が一番楽しい。
なんでも作れる。
どんな風にでも作れる。
丈夫に作れる。
カッコよく作れる。
軽く作れる。
素早く作れる。
綺麗に作れる。
賢く作れる。
今日も一日、良い木工職人であれ。

             工場長 古賀のメモ


木工の逃げ

材料が動く木工では、逃げがどうしても必要

木工では、逃げ、という言葉を使う。製造業全般で使うかもしれない。
ぼくは、木工を始めて、最初にこの逃げというものを知った時、とても感動した。逃げという考え方を知って、さらに木工が好きになったのを覚えている。

逃げとは、80点を狙う戦術だ。欠点はゼロではないが、その欠点を補うだけの安全と安心が得られる。確実性が増す。具体的に言えば、とくに可動部分によく使われる考え方で、引き出しの中箱を、ちょうど良い寸法よりもさらに2ミリ小さくするときに、2ミリ逃げた、という。中箱も木材だし、本体も木材だから、当然反ったり縮んだりする。今はちょうどよくても、のちのちきつくなってしまうかもしれない。だから、ちょっとゆるめになってしまうけれど、2ミリ逃げて、安全をとろう、という判断をする。

あそび、も逃げにちかい概念だ。逃げの方が時間を考慮しているニュアンスが強いか。
どれだけ逃げるか、どんな時に逃げるか、どんな風に逃げるか、職人をそんな視点で観察するとけっこう面白い。


木工の難しさ

木材は動くからこそ難しくて楽しい

木工の難しさは、なんといっても、材料が動くことだろう。動く、つまり反ったり、縮んだり、膨張したりする。幅100ミリの無垢材のテーブルだったら、環境が変わって、クーラーがすごくきいている部屋などに置かれると、5ミリくらい縮んだりする。
加工中もやっぱり動くので、その動きを読んで、きっと縮むからすこし幅広めで作ったりするか、もしくは、動いてもなんとかなるように逃げて作る。どんなに精度よく加工をしても、変形してしまうので、あるレベルより細かい精度を求めても仕方ない、意味がないという面が、木工にはある。

ただ、どこにその境界を置くかは人それぞれで、形になればいいんだという加工をする人もいるし、うちの副長のように、ものすごく細かいところまでこだわる人もいる。
副長はとにかく細かい人で、加工の精度が悪くて隙間ができたりするのが何よりも嫌らしく、材料の動きを読んで作業をしている。おれはちょっと病気だし変態だと自分で言っていたけれど、真似ができないくらい細かい。
木工よりも機械工作とかの方が向いているのではないかと思うけれど、どうも、その動くところにこそ、木工の魅力を感じているらしい。パズルのように、いろいろな可能性を考えて加工をすすめるのがたまらないみたいだ。


スキー 小回りのコツ

木工のコツもスキーのコツも、客観的な観察から

Bonburuの工場からスキー場が見える。

リフトは一本しかないが、5つのコースがあり、上級者から初心者まで楽しめるなかなか良いスキー場だ。
休日の今日は、夕方からナイターを滑ってきた。

ずっとウェーデルンというのか、小回りの壁を乗り越えられずにいた。スキーの上達は5年前で止まっている。大きく、板をそろえて回るパラレルターンがなんとかできるというレベル。
それが、ここ数回スキー場に行って、少しだけれど小回りのコツがわかってきた。視界の下方で、スキー板の先端が右から左、左から右へと滑らかに移動する滑り方ができるようになってきた。
いろいろな人にウェーデルンのコツってなんですか、と聞いてきた。それでも、どうしても体がついていかない。板がすばやく切り替えられないでいた。

やはりコツというのは、自分で掴むものなんだなと思う。木工でも同じ。工場でもこのコツはね、と教えあうけれど、やっぱり自分なりの事物の捉え方が勝負、自分の理屈で理解するキーをいかに探すかが勝負なんだなと思う。そのためには他の人が木工をしているところを観察する。自分の木工の仕方を観察する。この両方をするしかない。こうしたらこうなるという因果がというか、パターンをつかもうとする姿勢が、自分なりの木工のコツをみつける助けとなる。

ぼくがウェーデルンのコツとして掴んだのは、板にしっかり乗って、回転をしたら、だいたい50パーセントぐらい、その乗って踏ん張っている感じを抜いてやる。加重を減らす動きをする。具体的にはちょっと伸び上がる。今まではこの伸び上がりが雑で、いっきに0パーセント加重にしていたんだなと、気づいた。それがいけなかったのだとわかる。ある程度の加重がないと次のターンへの流れが途切れてしまうというか、板だけが体の下を通り抜けていくことが難しくなる。ここ。ここがいままで気づけなかったポイントです。
50は乗ったままで、板だけ進ませるというか、体だけ残すというか、ある程度板には加重しながら、上半身はそのままで下半身だけが動く。右に回ったなと思ったら、半分加重を減らして、あとは板だけ先に行って、みたいな感じにすると自然と次の左回転の姿勢になれる。俯瞰してみると、振り子のように下半身が左右に振られる。

これが気持ちいい。めちゃくちゃ楽しい。慣れてくると板が仕事をして、その上で上体はラクをさせてもらえる。板だけが体の下を行ったり来たりする。スピードを出しても怖くない。疲れない。けっこう滑り込んでも、余裕でスキー場をあとにできるようになった。


木工の音

瞳孔を開くように、耳も敏感になる

木工は、音が出ます。時には耳が痛くなるくらいの大きさで、耳栓やイヤーマフは欠かせません。トリマーなどの電動工具はギュルギュルの高音を出しますし、丸ノコ系の木工機械はキーンと寒くなるような音を出します。
工場でそれぞれの作業者がたてる音も違います。工場長は材料をパンっと気持ち良い音を立てて置きますし、岩田さんはまったく音を立てずに置きます。

使用しないと工場長に注意されるので、耳栓をつけて仕事をしてますが、ぼくは、木工の音はたいていゆるせるというか、好きです。気になりません。
けっこう音をたよりに仕事をしている部分もあって、イヤーマフなんかしていると、ちょっとした異音に気づけず、失敗したり、危ない目にあったりします。極端な話、あ、刃物回ってたんだ、とスイッチが入った機械に無造作に手を伸ばしそうになったりします。
木工の音といえば、やはり、玄翁で鑿の頭をたたく音でしょうか。これは、本当に気持ちがいい。鉋の刃の出方を調整するときの音なんてたまらないです。木工をやっていると、耳の敏感さのレベルを使い分けられるようになります。大事な時は耳の感度を上げていますし、そんなときに後ろから話しかけられると、本当に飛び上がるようにびっくりしてしまいます。これは工場長たちに話しかけても同じです。瞳孔が目一杯開いたときにライトを向けらるようなものです。申し訳ないので、いつも前から、視界に入ってから、話しかけるようにしています。